すいどうばし絵画療法研究所
 &カウンセリングルーム

水道橋の絵画療法の学べる小さな研究所
-窓の外には神田川-

現在の画像に代替テキストがありません。ファイル名: 口傳心修.png

心理療法やカウンセリングについて、48年の臨床経験の中で体験したことや考えてきたこと、臨床家として人間として必用だと思われることなどについて、これからここで徒然に書いていきたいと思います。

まずはじめに、声のもつ臨床的意義について述べてみたいと思います。人間の声には非常に魅せられるものが潜んでいます。もう30年以上前になるでしょうか、韓国の《語り歌》であるパンソリの映画『風の丘を越えて(西便制)』を見て,韓国にとても心惹かれ初めて韓国に出かけました。

パンソリを求めてソウルから百済の都・扶余、そして全州へとバスを乗り継ぎ、パンソリの春香伝の発祥の地、全羅南道の果て南原に行きつきました。そこで幸運にも、南原の國立民俗國楽院でパンソリを伝授している全仁三先生の稽古場面を見せてもらえる機会を得ました。そのとき全仁三先生から教わった大切なことがあります。それは《口傳心修》ということです。その意味は、民俗感情のようなとても大切なことや繊細な心の状態を伝え修めることは《口傳》でしか学ぶことができないということです。

そのような大切なことを遠い異国の韓國で身ぶりと文字だけを頼りにして教わるとは全く予想していませんでした。全仁三先生は《口傳心修》の話をされたあと、思いがけず突然に太鼓を打ち春香伝のパンソリを間近で実演し語ってくださいました。それはまるで異国から来た者たちへの帰国のはなむけのようでパンソリの声が胸に染みわたりました。

同様のことを中井久夫先生は、第4回芸術療法セミナーの「個人絵画療法の適応と治療構造」の講義において、一対一の心理療法の中での絵画療法の使用は日本的な特徴であり、その治療文化を大切に守っていくことが必要だと述べられています。また、精神医学には文章化されていない口伝の文化があまたあり,それが臨床には欠かせないものだとも語られています。

心理療法やカウンセリングにおける声のもつ意義について改めて考えてみると、声の間合いや声のトーン、合いの手の入れ方や息のつきかたなど、専門書やパソコンからはとうてい学ぶことはできないもだと言わざるを得ません。心理臨床もまた口伝の文化です。その口伝の文化をどのように守り伝えていくのかが、われわれ臨床家が問われている問題なのだと言えます。